ネット上でキャットフードに関する情報を調べたとき、よく目にするのが「穀物の危険性について」です。
「猫は穀物を消化できないから」
「穀物アレルギーを引き起こすから」
といった理由により、多くの情報サイトで穀物を含むキャットフードを与えないように注意喚起がなされています。
確かに「猫が穀物を好き好んで食べている」という話は聞きませんが、果たして本当に穀物の給与は危険なのでしょうか。
というわけで、ここでは穀物の危険性について調べ、まとめてみました。
猫は肉食なので穀類の消化が不得意
「猫に穀物を食べさせてはいけない」といわれる理由は、猫の腸では穀物をうまく消化できないためです。
正確には、「猫は人間に比べて、穀物の主成分である炭水化物を消化するのが苦手」といわれています。
穀物に含まれている炭水化物のほとんどはでんぷんですが、そもそもこれは人間もうまく消化することができません。
でんぷんは消化吸収率の悪い栄養素なので、「猫だから消化しにくい」というわけではないのです。
加えて、猫は腸の長さが体長の約4倍(人間の腸は約5倍、草食動物の腸は約10倍)と短く、食物繊維を多く含む穀物をスムーズに消化することができません。
これらのことから、猫に穀物を与えるべきではないという意見が主流になっています。
実は加熱調理した穀類なら消化に負担がかからない
先に説明したように、でんぷんは人間でもうまく消化することができません。
それでも私たちが問題なく摂取できているのは、多くの食品では加熱加工が施されているからです。
生のでんぷんはそのままだと消化に悪い栄養素ですが、加熱することで吸収消化性を高めることができます。
猫の場合も同様に、加熱加工が施されたでんぷんなら消化することが可能です。
キャットフードによっては小麦やとうもろこしといった穀物が使用されていますが、いずれも加熱加工が施されています。その結果、でんぷんの結晶構造が水に溶け、吸収されやすくなります。
これを糊化(アルファ化)といいます。
つまり、キャットフードとして摂取する分には、仮にでんぷんを含んでいても問題はないということです。
なぜキャットフードに穀類を入れるの?
世間一般に「猫に与えるべきではない」といわれている穀物。
しかし、ペットフードメーカーはなぜそれでも穀物を使用するのでしょうか。
ペットフードの製造には、多くの専門家が携わっています。
また、より高品質かつ多くの愛猫家から支持される商品を開発するために、世間の声にも耳を傾けています。
当然、穀物の危険性について、多くの意見が出回っていることも重々承知。
それでもなお穀物を使用するのには、何かしらの理由があるはずです。
というわけで、キャットフードに穀物が使用される理由を調べてみました。
かさましのため
キャットフードに穀物が使用される理由のひとつとして、「製造コストの節約」が挙げられます。
市販のキャットフードを見比べていただくとわかりますが、ものによって販売価格に大きな差があります。
1袋あたりの内容量が多いにもかかわらずリーズナブルな価格のものもあれば、内容量が少ないのに高価なものもあります。
この大きな違いは、使用する原材料によるものです。
牛や豚の新鮮な肉を主原料にすると高品質なキャットフードに仕上がりますが、その一方で製造コストが高くなってしまいます。
そのため、販売価格もそれなりの値にしなければ、ペットフードメーカーは赤字を被ることになります。
一方、穀物を多く含めると、品質は若干落ちてしまうものの、製造コストを大幅に節約できます。
その結果、リーズナブルな価格で販売しても、ペットフードメーカーはしっかり利益を得ることができます。
また、穀物を使用することでたんぱく質の含有量をかさ増しすれば、買い手にとってはお得感もあります。
つまり、穀物を多く使用しているキャットフードは、メーカーにとっても飼い主さんにとってもそれなりにメリットのある商品といえるわけです。
適量の炭水化物で栄養バランスを整えるため
すでに説明したとおり、穀物の主成分は炭水化物(でんぷん)です。
炭水化物にはビタミンやミネラルなどが含まれていますが、これらは猫にとっては欠かせない栄養素。
動物性たんぱく質を多く含んでいる肉類を食べているだけでは、これらの栄養素を摂取することができません。
それどころか、たんぱく質や脂質ばかりを過剰に摂取することになり、それが原因で体に不調が生じるおそれもあります。
そこで、穀物を加えて炭水化物も摂取できるようにすることで、肉類だけでは不足しやすい栄養素を補いつつ、猫の健康状態を管理しているのです。
タンパク質や食物繊維やビタミン・ミネラルの供給源として
穀物は炭水化物を多く含んでいますが、それ以外にも健康維持に欠かせない栄養素をたくさん含んでいます。
たとえば、食物繊維もそのひとつです。
食物繊維には腸内環境を整える役割があることから、体内に蓄積している不純物(余計な脂肪や老廃物、毛玉など)を排出しやすくする、便通を良くするといった効果が期待できます。
特に自分で体を舐めて毛づくろいする猫は体内に毛玉が溜まりやすいのですが、適量の食物繊維を摂取することで毛玉が排出されやすくなり、体への負担が軽減されます。
また、このほかにも体内の物質代謝を良くするビタミン類、排尿によって不足しやすいミネラルなどもまとめて摂取できます。
このことから、より猫の健康管理に適したキャットフードを作るために、穀物を使用することが多いようです。
キャットフードを形作るためには欠かせないから
キャットフードに穀物を使用する理由としては、「形状を保つため」ということも挙げられます。
キャットフードは、ドライフードとウェットフードの2種類に分けることができます。
ドライフードはカリカリとした食感が特徴で、食べごたえバツグンです。
また、歯を磨く習慣がない猫にとっては、このドライフードの歯ごたえが歯のケアにも適しています。
一方、ウェットフードは水分が多く、喉越しの良さが魅力的です。
水分補給に適しているほか、噛む力が弱まっているシニア猫でも食べやすいというメリットがあります。
それぞれに異なる特徴がありますが、穀物はこれらの形状を作るのに重要な役割を果たしています。
グレインフリーが有効なのは穀物アレルギーの猫だけ
穀物やその主成分であるでんぷんは、猫にとって吸収消化性の悪いものです。
しかし、キャットフードに使用されている穀物は、加熱加工によって吸収消化性の悪さが克服されています。
そのためデメリットはほとんどなく、むしろ炭水化物やミネラル、ビタミン類といった必要な栄養素の補給源として重宝します。
そんな中で最近流行っているのが、グレインフリーのキャットフード。
これは穀物を一切使用していないことを売りにした商品です。
つまり、穀物の摂取による危険性を回避することができます。
とはいえ実際のところ、健康な猫であれば、上で説明したように穀物を使ったキャットフードでも大きな問題はありません。
穀物アレルギーを持つ猫にとっては嬉しい商品ですが、それ以外の猫には特別これといった恩恵はないといえるでしょう。
穀物入りは不健康というステマ
「猫にとって穀物は危険である」
「穀物を含まないグレインフリーは猫の健康管理に最適」
といったフレーズをネット上でよく見かけますが、100%そうとは言い切れません。
しかし、グレインフリーを推すペットフードメーカーのマーケティング戦略、「穀物=危険」というアフィリエイトのステルスマーケティングにより、世間に間違った認識が広まっています。
多くの意見に惑わされずに、きちんと正しい情報を探すようにしましょう。
重要なのは栄養バランスと安全性
“猫の健康にいいキャットフード”について、グレインフリーか否かはあまり関係ありません。
それよりも、「猫の年齢にあわせた適切な栄養素が適量含まれているか」のほうが重要です。
猫はライフステージによって必要とする栄養素の量が異なります。
このことを知らずに不適切なものを与えてしまうと、特定の栄養素が過多になったり、あるいは逆に不足したりといった問題につながりかねません。
また、人工添加物をはじめ、猫に有害な化学薬品が含まれていないかどうかの確認も大切です。
栄養バランスと使用されている原材料の安全性を重視し、キャットフードを選ぶようにしましょう。
猫の体質に合ったキャットフードを選びましょう
人によって体質が異なるのと同じように、猫の体質も個体によって異なります。
生まれつき消化器官が未熟な猫には消化器サポートのキャットフードを、腎臓が弱い猫には腎臓ケアのキャットフードを与えるといったように、その猫の体質に合った商品を選ぶことが大切です。
また、すでに何かしらの胃腸症状が現れている猫、腎臓病を患っている猫、妊娠中もしくは授乳中の猫には、各々の病気・状態に適した栄養素を含む療法食を与える必要があります。
ネット上で有益な情報を探すことは大切ですが、「ネットで見たから」といって一概に穀物を危険視するのは賢明ではありません。
穀物の使用の有無に関係なく、猫の健康状態や体質に合ったフード選びをすることが大切です。
まとめ
猫にとって、穀物は確かに消化性の悪い材料です。
そのことを踏まえると、グレインフリーはメリットのひとつといえます。
しかし、優れた加工技術によって消化性の問題が解消されている現在は、穀物アレルギーのある猫にしか大きなメリットはないといえます。
ネット上で指摘されている穀物の危険性に惑わされることなく、そして「グレインフリー=画期的な健康食品」という売り文句を過信しすぎることなく、猫にとって真に必要なキャットフードを見極める目を持つことが望ましいといえるでしょう。