キャットフードのパッケージに記載されている原材料表には、その商品を製造する過程で使用された材料が事細かに書かれています。
しかし、チキンや魚、小麦、とうもろこしなどの材料はすぐにわかっても、ものによってはどんな材料なのか見当もつかないものがあるのではないでしょうか。
「たんぱく加水分解物」も、そのひとつではないかと思います。
名前を見る限りでは、食材というよりも添加物の一種のようなイメージが強いのではないかと思います。
猫の健康を損ねるおそれがある材料であれば、なるべくこれを含まないキャットフードを購入したいところですが、実際のところはどうなのでしょうか。
というわけで、ここではたんぱく加水分解物について詳しく調べてみました。
タンパク加水分解物とは
たんぱく質は、何百ものアミノ酸が鎖状に結合してできています。
たんぱく加水分解物とは、このたんぱく質をアミノ酸やペプチド(アミノ酸が結合したもの)に分解したもののことをいいます。
たんぱく加水分解物には、アミノ酸の一種であり旨味成分でもあるグルタミン酸、味にコクを加えるペプチドなどが豊富に含まれています。
食品の旨味を引き立たせるのに適しており、カップ麺やカレールー、レトルト食品など私たちが口にする食品にも使用されています。
ちなみに、食品の旨味を引き立たせるために添加することが多いものの、法律上は「食品」に分類されます。
そのため、原材料表での表示方法について明確な決まりはありません。
ただし、大豆のように加水分解の反応物がアレルゲンになる可能性がある場合は、その反応物を表示することが義務付けられています。
原材料
すでに説明したとおり、たんぱく加水分解物はたんぱく質をアミノ酸やペプチドに分解したものをいいます。
ということは、製造するためにたんぱく質を用意する必要があります。
たんぱく質には「動物性たんぱく質」と「植物性たんぱく」質の2種類がありますが、どちらを使用してもたんぱく加水分解物を製造することができます。
動物性たんぱく質はその名のとおり、牛や豚といった動物の肉、サーモンやマグロなどの魚の身から摂れるたんぱく質を指します。
必須アミノ酸を豊富に含んでおり、私たち人間にとっては筋肉増強や疲労回復といった効果があることで知られています。
猫にとっても同じで、健康的な成長に欠かせない栄養素といえます。
一方の植物性たんぱく質は、大豆や小麦など植物から抽出されるたんぱく質を指します。
こちらは動物性たんぱく質に比べて油脂の含有量が少なく、低カロリーだという特徴があります。
そのため、すでに体がある程度成長した成猫、シニア猫に適しています。
ただし、大豆や小麦はアレルゲンになることが多いため、穀物アレルギーのある猫には与えられない点に留意する必要があります。
製造方法
たんぱく質を分解することでたんぱく加水分解物を作ることができますが、その製造方法には「熱水分解」「酸分解」「酵素分解」の3種類があります。
以下、それぞれの製造方法について、簡単にまとめています。
1.熱水分解
沸騰した熱水で煮込んで分解する方法です。
「熱水分解」という言葉だけを聞くとイメージが湧きにくいかもしれませんが、身近な例を挙げると、ラーメンのスープ作りでこの方法が使われています。
動物の骨や鰹節を長時間煮込むことでスープの旨味を引き出していますが、これがまさに熱水分解です。
2.酸分解
塩酸を加えて分解する方法です。
熱水分解に比べてすばやく分解できる、という特徴があります。
現在、最も採用されることが多い製造方法です。
しかしその一方で、製造過程において発がん性物質を生成してしまう可能性がある、というデメリットも指摘されています。
3.酵素分解
プロテアーゼ(微生物を培養して作った酵素)をはじめ、酵素を使って分解する方法です。
コストが気になることから酸分解にはまだ及ばないものの、年々採用率が増えています。
タンパク加水分解物を使いたいのはこんなとき
たんぱく加水分解物を使用する目的として特に多いのは、すでに軽く触れたとおり、「食品の旨味をより引き立たせること」です。
そのため、調理や食品加工の際に使用されています。
品質を落とすことなく長期間保存しやすい、加熱耐性が高いといった特徴もあり、国内だけに限らず世界的に広く活用されています。
動物性たんぱく質、植物性たんぱく質の両方から製造できることはすでに説明しましたが、いずれを元にするかで特徴が異なります。
動物性たんぱく質をベースに製造した場合は、よりコクのある味わいを引き立たせることができます。
一方、植物性たんぱく質を使って製造した場合は、あっさりとしたシャープな味わいになります。
人間のために使う時
食品の旨味やコクをより引き立たせるためによく使われるのが、うま味調味料と呼ばれるものです。
しかし、これは法律上、添加物に分類されます。
そのため、「添加物不使用」を謳う食品に使用することはできません。
一方、たんぱく加水分解物は食品に分類されるため、添加物不使用の食品に用いることができます。
このことから、たんぱく加水分解物は数多くの食品に使用されています。
私たち人間が口にするものであれば、たとえばクッキーやスナック菓子などが挙げられます。
商品によっては濃厚な味わいのものがありますが、あの味を作り出すための一端を担っているのがたんぱく加水分解物です。
また、鰹節や昆布を使って出汁を摂るのも、熱水分解によってたんぱく加水分解物を作り出すための工程です。
そのほかにもラーメンのスープやカレールー、焼き肉のタレ、ドレッシング、冷凍食品、漬物など、多種多様な食品に使用されています。
興味があれば、これらの食品の原材料を一度チェックしてみてください。
キャットフードに使う時
キャットフードの製造においてたんぱく加水分解物を活用する場合、やはり人間用の食品と同じようにコクのある味付けにすることを目的としています。
猫にも人間と同じように味の好みがあります。
そのため、自分の好みに合わないキャットフードはなかなか口にせず、食べたとしても少量で食事を終えてしまうケースが多々見られます。
その結果、残ったキャットフードを捨てるハメになるほか、十分な食事を取らないことで猫の体に何かしらの不調が生じるおそれもあります。
しかし、たんぱく加水分解物を加えていれば味にコクが増し、嗜好性が高まります。
これにより、猫の食いつきが良くなることが期待できます。
また、消化器官への負担を減らすという目的もあります。
すでに説明したように、たんぱく加水分解物はたんぱく質を細かく分解したものです。
そのため、たんぱく質をそのまま消化するのに比べて、こちらのほうが消化しやすいというメリットがあります。
まだ消化器官が十分に発達していない子猫、加齢によって消化器官の機能が衰えてしまったシニア猫でも、たんぱく質をスムーズに摂取しやすくなります。
タンパク加水分解物に隠された危険性
キャットフードの嗜好性だけでなく、たんぱく質の吸収率を高める意味でも役立つたんぱく加水分解物。
猫にとってメリットのある材料といえるでしょう。
であれば、たんぱく加水分解物を使用しているキャットフードを積極的に購入したくなるところではないでしょうか。
しかし、実はたんぱく加水分解物の危険性を指摘する声もあります。
実際にどのようなリスクがあるのか、詳しく見てみましょう。
摂取するとこんな風になるかも
基本的にたんぱく加水分解物は安全な材料として使用されていますが、「酸分解」によって製造された場合に微量の発がん性物質が生成されることが確認されています。
「やっぱり塩酸を使うのは危険なんだ」と思われる方もいるかもしれませんが、塩酸そのものに危険性があるわけではありません。
人間や動物の胃から胃液が分泌されますが、塩酸はこの中にも含まれています。
つまり、胃液が胃に入った食べ物、栄養素を消化・分解していると考えれば、塩酸を用いること自体は危険な方法ではありません。
しかし、酸分解によって原料の脂肪に含まれるグリセリンと塩酸が結合した場合にのみ、クロロプロパノールという物質が微量に生成されることがわかっています。
このクロロプロパノールは、発がん性や変異原性(DNAや染色体による遺伝情報に異常をもたらす性質)のリスクがあります。
過去に行われた動物実験において、この事実は認められています。
ただし、この動物実験ではラットに過剰な量の加水分解物を投与しています。
ふつうに生きているだけでは間違いなく摂取することのない量を投与された結果、発がん性が認められたというわけです。
キャットフードにたんぱく加水分解物が含まれており、それが仮に酸分解によって製造されているとしても、危険性は極めて低いといえるでしょう。
とはいえ、過剰に与えすぎるのは禁物です。
個体差によって発がん性のリスクが高まるおそれがあるほか、それ以前に過剰摂取によって消化器官に負担がかかり、胃腸症状を引き起こすことも考えられます。
必ず適量を守って正しくあげるようにしましょう。
アレルギーのある猫は注意
たんぱく質は、猫にとって必要不可欠な栄養素です。
元気に活動するためのエネルギー源であり、また健康的に成長するため、しなやかな筋肉を作るために欠かせません。
そのため、キャットフードにはたんぱく質を摂取できる材料が多く含まれています。
動物性たんぱく質を摂取できるチキンやミート、サーモン、植物性たんぱく質を摂取できる小麦、とうもろこしなどがそれです。
また、ここで取り上げて紹介しているたんぱく加水分解物でも、微量ながらたんぱく質を摂取できます。
とはいえ、原材料としてそのまま使われているチキンやサーモン、小麦などに比べると、はるかに少ない量となっています。
たんぱく加水分解物を使用する主な目的は、キャットフードの味を引き立たせるためです。
コクが出て猫の食いつきが良くなるので、基本的にはプラスに働きます。
しかし、同じたんぱく加水分解物でも、動物性たんぱく質を原料としているものもあれば、植物性たんぱく質から作られているものもある点に注意が必要です。
動物性たんぱく質を使用して作られているものなら問題はありませんが、植物性たんぱく質から作られているものの場合は、アレルギー反応を引き起こす可能性があります。
特に小麦をはじめ、穀物を使って作られているものは要注意。穀物アレルギーのある猫に与えてしまうと、体に不調が生じたり何かしらの症状が現れたりする危険があります。
タンパク加水分解物の摂取によってこんな症状が出るかも
酸分解によって作られたたんぱく加水分解物については、発がん性が認められています。
危険性は極めて低いものの、大量に摂取するとがんを引き起こすおそれがあります。
がんができる部位によって症状は異なりますが、排泄障害、嘔吐、視覚障害など、いずれも危険な症状ばかりです。
外見的に異常が現れる症状ばかりではないので、ふだんから猫の様子を観察し、少しでも異変があればすみやかに受診することをおすすめします。
アレルギー症状について
たんぱく加水分解物を含むキャットフードを与えるうえで、最も注意しなければいけないのが「アレルギー」です。
猫によっては、特定の食品を摂取することで、アレルギー反応を示すことがあります。
特に知られているのが、小麦やとうもろこしといった穀物によるアレルギーです。
また、猫によっては牛肉や魚肉がアレルゲンになってしまうこともあります。
猫のアレルギー症状として特に多いのが皮膚炎です。
強いかゆみをともなう湿疹が生じやすく、強く掻いてしまうことでさらに状態が悪化します。
顔やお腹、耳に出やすく、また一部分だけでなく左右対称に症状が現れるという特徴があります。
さらに、この皮膚炎が原因で、胃腸炎を併発するケースもあるようです。
下痢や嘔吐といった胃腸症状が現れやすいのですが、単なる下痢・嘔吐と違い、数週間にわたって慢性的に起こるという特徴があります。
このほかにも、お腹の張りや脱毛といった症状が現れることもあります。
しきりに体をかゆがったり、頻繁に下痢を起こしたりといった異常が見られる場合は、何かしらの食物アレルギーを引き起こしている可能性があります。
その場合は、すみやかに獣医師に相談するようにしましょう。
近年訴えられている危険性とは
すでに説明したように、たんぱく加水分解物は3種類の方法のいずれかで作られています。
その中でも特に気になるのが、塩酸を用いる酸分解ではないでしょうか。
塩酸といえば、言わずと知れた劇薬。
そんなものを使って加工された食品には危険があるようにも思えますが、実際のところはどうなのでしょうか。
まず塩酸そのものの危険性についてですが、これは問題ありません。
そもそも人間や動物の胃では、塩酸に似た胃液が分泌されます。
胃で食べ物を消化するのと同じメカニズムで加工するので、この方法自体に害はありません。
しかし、酸分解をした際に発生する「クロロプロパノール」という物質には問題があるといわれています。
クロロプロパノールは、食品原料を加熱加工した際に生成される物質です。
過去に行われた動物実験において、発がん性が認められています。
このことが広く知られるようになったことから、「たんぱく加水分解物=危険な材料」というイメージが強まりつつあります。
しかし、確かに酸分解によって作られたたんぱく加水分解物は発がん性のリスクがありますが、発症ケースはごく稀です。
そもそも、発がん性が発見された動物実験では、ふつうに生きているうえで間違いなく摂取することがない大量のクロロプロパノールが投与されています。
キャットフードにクロロプロパノールが含まれる場合は、基準値を下回る量になっています。
過剰に与えてしまうとリスクがあるかもしれませんが、毎日正しく与えていれば問題はないでしょう。
まとめ
以上、キャットフードに含まれるたんぱく加水分解物について解説しました。
ものによっては発がん性のリスクが懸念されていますが、基本的は猫にとってプラスに働く材料です。
味にコクを出したり、微量ながらたんぱく質を摂取できたりといったメリットがあります。
とはいえ、たんぱく加水分解物の原料によっては食物アレルギーを引き起こす可能性もあります。
飼い主として、このようなメリットとデメリットをきちんと押さえたうえで臨機応変に取捨選択することが大切といえるでしょう。