妊娠中や授乳中の猫にはどのようなキャットフードを与えたら良いのでしょうか?
人間が妊娠中や授乳中の食事には気を使うように、猫も妊娠・授乳中は十分な栄養が必要です。
母猫やお腹の中の子猫のために、どのようなキャットフードが良いのか、妊娠・授乳期のキャットフードについて説明しています。
猫の妊娠と出産
猫はとても繁殖力の高い生き物です。
人間や犬とは違い、発情期に交尾をすることで排卵が起き、高い確率で妊娠します。
猫の出産は一度に平均して3~5匹ほど、多いときでは10匹以上出産することもあります。
また、猫はオスよりもメスの方が早く発情期を迎えます。
メス猫の発情期
メス猫の最初の発情期はおよそ生後6ヵ月~12ヵ月で訪れます。
1回の発情期間は約1~2週間で、発情期間中に交尾をしなかった場合は、14日~21日の周期で発情を繰り返します。
猫は長日繁殖動物と言われ、昼間の時間が長くなると発情が訪れます。
具体的には1日の日照時間が14時間以上になると発情しやすいとされ、日照時間の長くなる2月~4月、気温の高い6月~8月は特に発情しやすくなります。
また、長毛種よりも短毛種の方が発情期が早く訪れると言われています。
短毛種は成熟が早いため平均で生後7ヵ月~9ヵ月頃には発情期を迎え、早い場合は生後5ヵ月で発情期を迎える猫もいます。
長毛種は短毛種に比べて成熟が遅いため、生後9ヵ月~12ヵ月頃に最初の発情期を迎える場合が多いとされています。
メス猫の発情のサイン
メス猫は発情すると特有のサインを出します。
猫によって異なりますが、高く大きな鳴き声、体をくねらせる、体を床などに擦り付ける、スプレー行為、お尻を突き出す姿勢をとるなどがあります。
犬のように体の変化が現れるわけではないので、発情期かどうかを判断することは簡単ではありません。
生後6ヵ月を過ぎた頃からは、猫の行動を注意して観察するようにしましょう。
猫の妊娠期間と授乳期間
人間は妊娠から出産までが約10ヵ月かかり、その後赤ちゃんが離乳するのは生後5ヵ月から18ヵ月の間が多いとされています。
一方で、猫は妊娠から出産までは約2ヵ月、そこから離乳までは約3ヵ月と、妊娠から出産、離乳までが非常に短い生き物です。
猫の妊娠に気が付いてから出産までが早いため、この事を知らない飼い主さんは驚くこともあります。
愛猫の妊娠の予兆は見逃さないようにすることが大切です。
妊娠・授乳中の猫の体の変化
妊娠中の猫は体の変化も見られます。
妊娠20日目くらいからは乳首がピンク色になり、少しずつ膨らんでいきます。
食欲が低下するなど、つわりの症状も見られます。
妊娠30日目くらいからはお腹や乳房が膨らみ、食べ物の好みに変化がみられることもあります。
多くの飼い主さんが猫の妊娠に気付くのがこの時期です。
妊娠40日目前後になると、食欲の増加、それに伴う体重の増加がみられます。
この頃になるとお腹が張り、活動量は低下します。
45日を過ぎてくると攻撃的になるため、そっとしてあげましょう。
妊娠50日目くらいからは体重がさらに増加し、お腹に手を当てれば飼い主さんでも胎動を感じることができます。
妊娠60日目を越してくると出産間近になり、トイレに頻繁に行くようになり、乳首や陰部の毛づくろいを始めます。
猫の体温は、出産の24時間以内に1℃ほど低下するため、この時期は猫の体温を計ることで飼い主さんも出産に備えることができます。
無事に出産を終えた後でも、妊娠直後の猫は神経質になっていることもあるため、ストレスをかけないようにしましょう。
妊娠・授乳期の猫に必要な食事とは
妊娠中の猫の食事は、通常の1.5倍のカロリーが摂れるようにします。
授乳中はそれよりもさらに多く、2~3倍のカロリーが必要になります。
ただし、やみくもに与えるフードを増やせばいいという訳ではありません。
人間と同じように、猫も妊娠中は高血圧や高血糖になりやすいため、キャットフードの栄養バランスには十分に注意する必要があります。
妊娠中の猫に必要な栄養成分
妊娠中の猫には、タンパク質や脂肪分、ビタミンB9(葉酸)などの多くの栄養素が多く必要です。
葉酸とも呼ばれるビタミンB9は、人間が妊娠中に必要とする栄養素としても知られていますが、猫にとっても重要な栄養素です。
以下では妊娠中の猫に必要な各栄養素について説明しています。
豊富なタンパク質と脂肪分
妊娠中の猫には十分なタンパク質と脂肪分が必要です。
タンパク質が不足してしまうと、死産や未熟児の原因となってしまいます。
妊娠中は胎児の発育のためにも多くのエネルギーが必要です。
猫はタンパク質からエネルギーを作ることができるため、アミノ酸を含む良質な動物性のタンパク質を摂取しなければなりません。
できるだけ高タンパク、高脂肪のキャットフードを与えるようにしましょう。
ビタミンB9(葉酸)
葉酸とも呼ばれるビタミンB9はDNAの合成に必要な栄養素で、胎児の胚発生の際に特に多く必要とされます。
母猫が十分に摂取できていないと葉酸欠乏症になり、口蓋裂、口唇裂、脊椎破裂など先天異常のリスクが高まります。
猫はビタミンB9を体内で生成することができないため、食事から十分な量を摂取しなければなりません。
ビタミンCやE、ポリフェノール
妊娠中の猫は免疫力が低下してしまうため、ビタミンCやビタミンE、ポリフェノールを摂取して免疫を高めてあげましょう。
猫も人間と同じように免疫力の低下から病気にかかりやすくなります。
母猫が病気にかかってしまうと、胎児にも影響が及んだり、出産時の事故に繋がる恐れもあります。
妊娠中の猫の免疫力を高めるために、抗酸化作用の高い成分を多く含んだフードを選ぶと良いでしょう。
EPA、DHAなどのオメガ3脂肪酸
EPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸は神経細胞の細胞膜の構成成分として働き、胎児の正常な成長のために必要な栄養素です。
猫の脳や神経系の発達は胎児期から生後数週間ほど続くため、オメガ3脂肪酸は妊娠中だけでなく授乳中の母猫にも必要です。
ただし、過剰に摂取してしまうと免疫機能障害の原因にもなってしまうため、注意が必要です。
タウリン
妊娠中の猫のタウリンの必要量は成長期の猫と同じでよいとされていますが、不足してしまうと流産や胎児形成不全、発育遅延の原因となります。
また、抗酸化作用を持つタウリンは、免疫力を高めたい妊娠中に摂っておきたい栄養素でもあります。
肉類の良質なタンパク質をきちんと摂取していれば不足することはないでしょう。
血糖値の上昇を抑えるフードを
妊娠中の猫は高血糖になりやすい状態です。
高血糖は胎児にも悪影響を与えます。
妊娠中に食べるキャットフードに穀類などの炭水化物が含まれていると、炭水化物の消化が苦手な猫は糖質のみを吸収してしまい、血糖値が上がりやすくなってしまいます。
妊娠中の猫に与えるキャットフードは、なるべくメインの原材料が肉や魚のものを選びましょう。
授乳中の猫に必要な栄養成分
授乳期の猫に必要な栄養は妊娠中とさほど変わりません。
ただし、授乳中の猫は母乳を作るため妊娠中よりもさらに多く、通常の2~3倍のエネルギーを必要とします。
このために、出産後の飼い猫は肥満への注意が必要です。
以下では授乳期の猫に必要な栄養について説明しています。
通常の倍以上のカロリー
授乳中の猫は母乳を作るため、通常の倍以上のカロリーが必要になります。
生まれた子猫の数にもよりますが、授乳中に必要とされるカロリーは一般的に体重(kg)×250キロカロリーと言われています。
授乳中の母猫は体重の1.5~2倍もの母乳を作り出すため、このように多くのカロリーが必要になるのです。
出産後から必要となるカロリーは徐々に増加するため、高カロリーかつ栄養バランスのとれたフードを与えるようにしましょう。
十分なタンパク質
授乳中の猫には良質な動物性タンパク質を十分に含んだフードを与えるようにしましょう。
ミートミールなどに加工された原材料のものより、なるべく肉や魚そのものが使用されたキャットフードを選ぶのがポイントです。
授乳中にタンパク質が不足してしまうと十分に母乳を作り出せず、子猫が栄養失調になってしまう恐れがあります。
豊富なカルシウム
授乳期の母猫は母乳を作るために体内のカルシウムが不足してしまい、低カルシウム血症を引き起こすことがあります。
低カルシウム血症では食欲の低下、けいれん、過敏症、不整脈、運動失調などの症状が見られます。
そのために、授乳中の猫にはカルシウムが豊富に含まれたキャットフードを与えるようにしましょう。
このとき、サプリメントなども与えてカルシウムを過剰に摂取させてしてしまうと尿結石などのリスクが高まります。
AAFCO(米国飼料検査官協会)が公表している100kcal中に含まれるべきカルシウムの最低量は、授乳期の猫で250mgとされています。
ビタミンC、ビタミンE、ルテインなどの抗酸化成分
ビタミンCやビタミンE、ルテインなどの抗酸化成分は子猫の免疫力を高める働きがあります。
ビタミンCは猫が体内で合成できる栄養素ですが、これらの栄養素はどれも授乳中には不足しがちになります。
このため、授乳中の猫は十分なビタミンCやビタミンE、ルテインを摂取する必要があります。
ビタミンCやビタミンEは細胞が活性酸素によって酸化するのを防ぎ、皮膚や被毛の健康を維持します。
これらのビタミンが不足してしまうと、免疫力の低下から起こる皮膚疾患などのリスクが高まります。
ルテインには紫外線などの刺激からから目を守り、猫の目の健康を保つ働きがあります。
L-カルチニン
L-カルニチンは脂肪を効率よくエネルギーとすることで母乳の生成を促します。
また、母乳の生成だけでなく、L-カルニチンは子猫にとってのエネルギー源でもあります。
子猫は体内でカルニチンを合成することができないため、母乳を与える母猫が十分に摂取しておく必要があります。
EPA、DHA
胎児の神経系の発育に必要な栄養素であるEPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸は、授乳中の母猫と子猫にも必要な栄養素です。
これらは猫の体内で合成できない栄養素であるため、母猫が食べ物から摂取する必要があります。
母乳を飲む子猫も脳や神経系の発達が行われています。
過剰に摂取してしまうと免疫機能障害のリスクが高まるという点は妊娠中と同様です。
タウリン
母猫のタウリンの十分な摂取は妊娠中と同様に重要です。
母乳となって子猫に届けられるタウリンは、子猫の免疫力を高め、網膜や心臓、生殖器の発育にも必要な栄養素です。
危険性のある添加物を避ける
授乳中の猫に与えるフードは、危険性のある添加物が含まれているものを避けることも大切です。
これは妊娠中も同じですが、危険性のある添加物は子猫にも悪影響を与える可能性があります。
子猫が飲む母乳は母猫が摂取した成分や栄養素から作られます。
免疫力がまだ低い子猫の安全のためにも、危険な添加物を含まない安全なキャットフードを選びましょう。
妊娠・授乳期の食事の与え方
猫の妊娠中、授乳中のフードの与え方にはいくつか気をつけるポイントがあります。
ここでは妊娠・授乳期のフードの与え方について説明しています。
なるべくストレスを与えないように
妊娠中や授乳期にはストレスを与えないように食事を与えましょう。
猫は産後に強いストレスを感じると、育児放棄をしてしまう場合もあります。
また、ストレスから食事をとらなくなることもあります。
特に出産直後は神経質になることが多く、できるだけ落ち着いてゆっくりとフードを食べられるようにしてあげましょう。
猫がストレスを感じる原因は、多頭飼い、来客、騒音、引越し、普段使用しているものが変わる、匂い、気温の変化、運動不足など、多くあります。
産後の敏感な猫にストレスを与えないためにも、できるだけ普段と変わらない生活環境を整えてあげることが重要となります。
多頭飼いをしている場合には、一匹だけ別の部屋で食べられるようにするなどの対策が取れれば理想的です。
ウェットフードを取り入れるのも有効
妊娠中や授乳期にはドライフードだけでなく、ウェットフードを取り入れるのも有効です。
このとき、ウェットフードだけ与えるのではなく、トッピングにするなどドライフードと混ぜて与えるようにしましょう。
妊娠中は大腸が圧迫されるため便秘になりやすい状態です。
水分を補給するためにウェットフードを与えるのは効果的でしょう。
また、授乳期の母猫も母乳を作り出すことで水分を奪われてしまうため、水分の摂取は重要です。
積極的に水を飲まない猫も多いため、ウェットフードを上手く活用するようにしましょう。
キャットフードは変えずに量や回数を増やす方法も
産後は通常の倍以上のエネルギーを必要とするため、一般的に食事の量も増えます。
しかし、いきなり量を増やしてしまうと母猫の体調を崩してしまうこともあるため、徐々に量を増やすようにしましょう。
また、1回の量を増やすのではなく、食事の回数を増やすことで1日の摂取カロリーを増やすという選択肢もあります。
猫にもよりますが、一度の給餌量を増やすよりは食事の回数を増やすほうが猫にとって負担となりにくいようです。
猫が食べたいと思ったときに食べれるような自動給餌器も有効でしょう。
まとめ
妊娠・授乳期の猫は母子ともに多くの栄養やカロリーを必要とします。
必要な量を把握し、十分な栄養を摂取できるようなフードを選び、適切に与えるようにしましょう。
特に母猫の摂る栄養は母乳として子猫に届くため、母猫の栄養が不足しないように気をつけましょう。
また、産後の環境の変化などから母猫にストレスがかかってしまうと、フードを食べなくなったり、育児放棄に繋がってしまうこともあります。
産後はいつも以上に猫の行動を観察するようにすると良いでしょう。
十分な栄養とカロリーが摂れるようにするのも大切ですが、出産後は体重の変化が激しい時期でもあるため、肥満にならないいための注意も必要です。