腎臓病は猫にとって発症しやすい病気です。
猫の腎臓病について症状や原因、腎臓をケアする食事療法について解説します。
腎臓をケアするキャットフード
猫の死因ではトップの腎臓病(慢性腎不全)
腎臓病(慢性腎不全)は、猫の死因としてがんと並んで多く挙げられる病気で、飼い猫全体のうち、2割以上の猫が腎臓病で命を落としているという調査結果もあります。
特に10歳以上の高齢の猫では有病率は30%以上であるとの報告もあり、腎臓病は猫の主要な死因と言えます。
腎臓病は発症すると、じわじわと進行していきます。
そのため飼い主さんが気づきにくく、気づいたときには相当に悪化していることも多くあります。
そして腎臓が壊れて機能しなくなった状態を「腎不全」と言います。
腎臓の働き
腎臓は胃や肝臓よりも後ろにあるソラマメの様な形をした臓器で、体の左右にひとつずつあります。
腎臓の役割は、血液中の毒素のろ過と排出、体内の水分量などの調整、またホルモンの分泌や調整など様々ですが、どれも生命の維持にとっては欠かすことができません。
腎臓の基本的な機能単位をネフロンと言います。
ネフロンは腎小体とそれに続く1本の尿細管のことで、腎臓の皮質部分に位置します。
ここでは腎臓の役割について、それぞれ詳しく解説します。
血液中の毒素や老廃物のろ過と排出
腎臓の働きで代表的なものが「尿の生成」です。
血液中に含まれ運ばれてくる毒素や老廃物など、体に不要なものをろ過します。
ろ過された毒素や老廃物は、尿として体の外に排出されます。
体内の水分量や電解質の調整
腎臓は体内の水分量や、電解質の調整も行っています。
水分や電解質(ナトリウム、カリウム、リン、カルシウム、マグネシウムなど)は、体にとって欠かすことができません。
多すぎても少なすぎても、悪影響が出てしまいます。
そのため、腎臓がそれらの量を調整することで、体内環境のバランスが保たれています。
ホルモンの分泌と調整
腎臓ではホルモンの分泌と調整も行われています。
赤血球を作るのに必要なエリスロポエチン、血圧を調整するレニンやプロスタグランジンなどのホルモンを分泌する働きがあります。
また、腎臓は活性型のビタミンDを分泌する器官でもあります。
活性型のビタミンDはカルシウムの吸収を促進し、骨を健康に保ちます。
慢性腎不全とは
慢性腎不全は、腎臓の機能が長い期間を経て徐々に低下していく病気です。
腎機能が正常に働かないということは、体内の毒素が排出できない状態であり、尿毒症を併発するリスクもあります。
慢性腎不全の多くは不可逆性かつ進行性という特徴を持つため、血液検査などで異常が出たり症状が見られたりするころには病気がかなり進行してしまっていることが多くあります。
慢性腎不全は猫の死因の上位に挙げられる病気で、尿を濃縮する機能を持つ猫にとっては宿命とも言える病気です。
なお急性腎不全は原因をはっきりと特定できる場合が多く、また症状を現れてからの経過時間が短いものを主に指します。
完治が難しい慢性腎不全とは異なり、急性腎不全は早期の適切な治療で回復が可能です。
急性腎不全を早期に完治できなかった場合に慢性腎不全へと進行するケースが多く見られます。
症状
慢性腎不全の症状は、病気の進行度によってステージ1(初期段階)~ステージ4(末期段階)に分類されることが多くあります。
【ステージ1】
臨床症状:なし
残存腎機能:33%
クレアチニン(Cre):正常 <1.6㎎/dl
尿比重:正常~低比重尿・タンパク尿(1.028~1.050)
慢性腎不全の初期段階であるステージ1では、ほとんど臨床症状は見られません。
「慢性腎障害」とも呼ばれる時期で、タンパク尿が見られる場合も。
症状がほとんどないため、この段階で慢性腎不全を発見するのは極めて困難でしょう。
【ステージ2】
臨床症状:多飲多尿
残存腎機能:25%
クレアチニン(Cre):正常~軽度上昇 1.6~2.8㎎/dl
尿比重:低比重尿・タンパク尿(1.017~1.032)
ステージ2では軽度ですが、臨床症状が見られるようになります。
水を飲む量が増えたり、尿の回数や量が増えたりなどの「多飲多尿」の様子が見られます。
腎脳機能が低下すると尿の濃縮ができなくなるので、薄い尿を大量に排出するようになります。
薄い尿を大量に出すため水分不足が起こり、水を多く飲むようになるのです。
普段からからよく観察してあげていれば、気がつく症状です。
ステージ2ではまだ症状に気づきにくいですが、腎機能が4分の1まで低下した状態になります。
【ステージ3】
臨床症状:多飲多尿、便秘、嘔吐、食欲不振など
残存腎機能:<10%
クレアチニン(Cre):軽度~中等度上昇 2.9~5.0㎎/dl
尿比重:低比重尿・タンパク尿(1.012~1.021)
ステージ3まで進行すると、全身的に臨床症状が見られるようになります。
軽度から中度の窒素血症、水をよく飲む、尿の回数と量が増える、便秘、嘔吐、食欲不振、痩せる、毛並みが悪くなるなどです。
ステージ3では毒素や有害物質を排出することが難しくなり、尿毒症が進行します。
症状としては特に嘔吐や食欲不振が多く見られ、この段階で飼い主さんが気がつく場合がほとんどです。
ステージ3の段階で、腎機能の75%以上に異常をきたしていると言われます。
【ステージ4】
臨床症状:重度の貧血、食欲不振など
残存腎機能:<5%
クレアチニン(Cre):重度上昇 5.0<㎎/dl
尿比重:低比重尿・タンパク尿(1.010~1.018)
腎臓病の末期段階であるステージ4では、腎臓以外の臓器にも様々な異常が起こっている状態と言えます。
食欲不振や貧血、ぐったりしているなど全身性の症状が現れ、また重度になっていることがほとんどです。
ステージ4の段階では、腎機能の90~95%以上に障害が出ており、死亡率の非常に高い状態です。
腎臓の機能がほぼ働いていない状態なので、積極的な治療を行わなければなりません。
原因
猫はネフロンの構造や尿を濃縮する特性、尿管の細さなどから他の動物に比べて腎臓病を起こしやすい動物とされています。
猫の慢性腎不全の原因で最も多いのは、加齢に伴う腎機能の低下です。
実際に慢性腎不全を発症している猫の多くは高齢の猫であり、加齢によるネフロンの減少が影響していると考えられています。
また尿路結石症や慢性腎炎、細菌やウイルスの感染症も原因になります。
過去に泌尿器系の病気を発症したことのある猫は、慢性腎不全を起こす可能性が高くなるという報告もあります。
中でも、尿路閉塞にかかった経験のある猫は慢性腎不全の発症率が特に高くなる傾向があります。
加齢や過去の病歴以外の原因としては、血中のタンパク質である「AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)」の機能によるものが東京大学の研究から報告されています。
通常であれば、腎臓機能が低下すると血中のAIMは活性化し、尿細管内で損傷した細胞の死骸を掃除することで腎臓の機能回復を行います。
しかし猫のAIMは他の動物とは異なり、腎臓機能が低下しても活性化しにくいのです。
その特徴が原因となり、猫には腎不全が起きやすくなっていると言われています。
治療
慢性腎不全は不可逆性の疾患です。
一度壊れてしまった腎臓の組織は元に戻すことはできないので、通常の治療による完治は困難を極めます。
慢性腎不全の治療は、輸液療法や食事療法、薬物療法などによる進行の遅延と症状の緩和を行う対症療法が主になります。
初期段階で病気を発見し、適切な治療を行えば慢性腎不全の進行はほぼ止めることができますが、ステージ4の末期段階まで進行していた場合は、腎移植や腎性透析を行うこともあります。
病気が進行する前に気がつけるように、常日頃から猫の様子をしっかり観察してあげましょう。
特にシニア猫には注意が必要です。
食事でできる腎臓病対策
前述しましたが腎臓の組織は一度壊れてしまうともとの健康な状態には戻りません。
そのため、猫が若い頃から腎臓に負担をかけないようにケアを心がけることが大切です。
少しでも早い段階で発見できるように、尿の量や臭いは常に確認して異変があれば早めに動物病院で診察を受けてください。
猫の腎機能は、基本的に食事でコントロールします。
その食事について、重要な3つのポイントがあるので紹介します。
リン・ナトリウムの低減
リン・ナトリウムの低減は、猫の腎臓ケアにおいて最も重要です。
腎臓病を発症している猫の場合、リンやナトリウムなどの電解質の排泄能力が低下した状態です。
そのために多飲や多尿、高血圧などになりやすいとされます。
これの症状を抑えるには、食事に含まれるリンやナトリウム(塩分)の低減が重要です。
特にリンの低減には延命効果があると複数の論文で発表されています。
適正なタンパク質量の摂取
リン・ナトリウムだけでなく、タンパク質の摂取を過剰にしないようにするのも大切です。
タンパク質を必要以上に摂取しないように控えましょう。
そうすることでタンパク質の代謝から発生する窒素老廃物の量を減らして、腎臓にかかる負担を軽減することができます。
オメガ3脂肪酸の強化
オメガ3脂肪酸の強化も腎臓のケアには欠かせません。
DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸は青魚などに多く含まれる不飽和脂肪酸で、様々な効能が認められています。
その中でも、血管の拡張による血流改善と、善玉コレステロールの増加による血圧の低下が猫の腎臓のケアに関係しています。
腎機能が低下すると余分な水分や塩分の排出ができなくなり血圧が上がります。
この血圧の上昇によって腎臓にさらなる負担がかかる悪循環が起こります。
オメガ3脂肪酸(特にEPA)には、高血圧や酸化ストレスを低減させる作用があり、腎臓病の進行を抑える効果が期待できます。
また、細胞を正常に機能させてくれる働きも。
症状が出てからではなく、子猫の段階から意識してオメガ3脂肪酸を摂取させることで腎臓病の予防が期待できます。
腎臓ケアのキャットフードであれば確実
近年では、腎臓病の療法食の種類は増えており、腎臓ケアを目的としたキャットフードも多くあります。
手作りの療法食といった方法もありますが、成分の調整などは簡単ではありません。
まずは確実な腎臓ケアキャットフードを与えるのが良いかもしれません。
腎臓ケアのフードはリン・ナトリウム・タンパク質などが適切に調整されているので、腎臓病の進行遅延が期待できます。
食欲が低下している猫でも食べられるように嗜好性の高いものやドライフード、ウェットフードなど種類は豊富にあるので、獣医師に相談しながら猫が食べてくれるものを試してみましょう。
まとめ
猫の慢性腎不全について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
慢性腎不全は猫の死因として多く挙げられる恐ろしい病気です。
慢性腎不全は症状が進行するまで気づきにくく、また気がついたときには末期段階であることもあります。
そのために早期発見が重要です。
普段から猫の尿の量や臭いなどを注意深く観察し、異変を感じたらすぐに動物病院で診察を受けましょう。
腎臓機能は一度壊れてしまうと元には戻りません。
子猫の段階から与える食事に気をつけることで、腎臓病を予防することが大切です。